ちょっとマニアックな美容医療

美容医療全般ついて解説

顎プロテーゼのリスク~骨にめり込む!?

 

美容外科では様々な部位にプロテーゼを使用します。

使用頻度が高い部位は鼻プロテーゼです。

次いで顎(オトガイ)が多いです。

今回は意外と知られていない顎プロテーゼの合併症について解説したいと思います。 

 

プロテーゼの合併症

まず、プロテーゼとは体内に埋入する人工医療材料のことを言います。

多くはシリコン製で、人工軟骨と言うこともあります。

その他にゴアテックスという人工硬膜を使用することもあります。

 

シリコンは生体親和性が高く、長年の使用経験もあり、長期間体内に留置しても安全と言われています。

主な合併症に感染、ズレ、石灰化、皮膚拘縮、皮膚菲薄化などがありますが、今回解説するのは“骨吸収”と言われるプロテーゼが骨にめり込む合併症についてです。

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骨吸収とは!?

骨吸収とは骨の破壊や萎縮、変形している状態のことを言います。

骨では常に、この“骨吸収”と“骨形成”をいう過程が行われています。

簡単に言うと、骨吸収とは古い骨を壊すこと、骨形成とは新しい骨を作ることです。

これを繰り返すことで骨は常に新しく生まれ変わっているのです。

しかし、プロテーゼを埋入することでこのバランスが崩れることがあります。

 

なぜ骨にめり込むの?

原因は2つあります。

1つめの原因はプロテーゼにかかるです。

通常プロテーゼはズレ予防のため骨に接着するように埋入します。

またアゴ先にはオトガイ筋という筋肉があります。

プロテーゼが骨とオトガイ筋に挟まれ、常に高い圧がかかることが原因です。

大きく硬いプロテーゼを入れると、より高い圧がかかります。

骨の上に圧がかかることで、骨形成より骨吸収が優位となります。

すると骨が脆弱となりプロテーゼがめり込み易くなるのです。

 

2つめの原因はアゴの骨(下顎骨)の構造によるものです。

下顎骨の表面は皮質骨という頑丈な骨で覆われており、その内部中央には海綿骨と呼ばれるスポンジ状の構造が存在します。

この海綿骨の構造がプロテーゼのめり込みをより容易にします。

 

同じプロテーゼでも鼻骨には筋肉による圧が少なく、海面骨の構造がないため、プロテーゼが骨にめり込むことはないです。

 

長々と説明しましたが、簡潔に言うと、

骨の内部構造が弱い部位に、高い圧がかかるとプロテーゼがめり込むのです。

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CTにて下顎骨へのプロテーゼの埋入を認める

 

解決策は?

根本的な解決方法はプロテーゼを抜去することです。

プロテーゼを抜去し骨への圧をなくすことで、骨にリモデリングという修復作業が起こります。

するとプロテーゼ抜去後に凹んでいた部位が再生し元の形に戻ります。

さらにプロテーゼ抜去前の形に戻すには、二期的に骨切りや人工骨によるオトガイ形成を行う必要があります。

 

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プロテーゼ抜去後のオトガイ形成

また簡易的な方法としてオトガイ筋にボトックスを打つ方法があります。

ボトックスと打つことで筋肉が緩み、プロテーゼへの圧を軽減でき、骨へのめり込みを緩和できます。

しかし、ボトックスは根本的な解決方法ではありません。

プロテーゼ抜去と違い、進行を止める程度の効果しかないです。

 

また、プロテーゼの位置によって骨吸収を最小限にできます。

下顎骨の先端(下縁)は骨梁と呼ばれるとても厚い皮質骨があり海綿骨がありません。

そのため骨吸収が起こりにくいです。

顎の先端のみにかつ、小さく柔らかいプロテーゼを入れるとめり込む可能性を抑えることができます。

 

ヒアルロン酸でも起こる!?

ヒアルロン酸でも同様の骨吸収が起こります

顎の骨膜上に長期間、硬めのヒアルロン酸を入れていると皮質骨に凹みが生じます。

原因はプロテーゼと同じですが、プロテーゼほど高い圧がかからないため軽度の凹みのことが多いです。

手術時に見つかることがあります。

 

 

以上、顎プロテーゼによる骨吸収について解説しました。

美容外科医でもまだまだ周知度が低い合併症です。

顎への安易なプロテーゼ留置やヒアルロン酸注入には注意が必要です。